コラム35 サンプリング定理の意味を理解しよう


●自然界の音声は皆アナログ

 コラム31コラム33ではWAVEファイルをフィルタリングしましたが、その音声は離散(デジタル)信号です。しかし、マイクで拾った音声は連続(アナログ)信号なので、そのような場合はA-Dコンバータによって離散化(
A-D変換)する必要があります。


●アナログをデジタルに変換する際はサンプリング定理を遵守しよう

 A-D変換をする際は、「
サンプリング定理」という重要な定理を理解する必要があります。サンプリング定理の厳密な証明は他著に譲り、この章では難しい数式は使わずにそのイメージを説明します。


サンプリング定理A (必要条件)

 サンプリング定理には、「アナログ信号を離散化する場合、アナログ信号が持つ最高周波数の2倍以上の周波数でサンプリングしなければならない」というものがあります。


●A-D変換前にナイキスト周波数以上をカットする

 図3-90に代表的なデジタル信号処理システムを示します。通常はこのように
アナログLPFで「帯域制限」を行ってからA-D変換します。その際のサンプリング周波数は帯域の2倍以上ある必要があります。




●ナイキスト周波数以下ならデジタルフィルタで処理できる

 その後はデジタルフィルタで不要な周波数を遮断します。もちろんアナログフィルタでもできますが、近年はデジタルフィルタのほうが安価で扱いやすいことから、できるだけアナログの仕事は減らし、デジタルに任せるようになってきました。


●アナログフィルタで帯域制限してサンプリング定理を遵守、その後はデジタルフィルタの出番

 アナログ/デジタルフィルタの使い分けは、ナイキスト周波数(サンプリング周波数/2)
以上の周波数はアナログフィルタの仕事、それ以下の周波数はデジタルフィルタの仕事と考えて差し支えありません。


●サンプリング定理を遵守しないと困ったことが起こる

 マンガ33で説明したように、90Hzの信号を100Hzでサンプリングすると本来の10Hzと混合してしまいます。80Hzと20Hzの間にも同様の現象が起こります。


●折り返しノイズが一度のってしまうともう除去できないので注意

 まめると表3-2のようになります。信号周波数Aと信号周波数B(周波数Aにオーバラップし得る周波数)の対応はちょうどナイキスト周波数を中心に折り返したような関係になります。信号周波数Bが「折り返しノイズ」(
エリアシング・ノイズ)と呼ばれるのはそのためです。

表3-2 サンプリング周波数100 Hz (ナイキスト周波数50 Hz )の場合
信号周波数A [Hz] Aに累積し得る信号周波数B [Hz]
10 90
20 80
30 70
40 60
49 51

 折り返しノイズが一度のってしまうと、もうデジタルフィルタでは手に負えません。ナイキスト周波数以上の成分はA/D変換前に必ず取り去りましょう


●折り返しノイズを避けるために必要な「サンプリング定理A」

 以上より一つ重要な定理を得ます。

 サンプリング定理A: 原信号の情報を失わないためには、原信号の最高周波数の2倍以上でサンプリングしなければならない。

 以上は「必要条件」です「十分条件」は次のページで。


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