コラム26 FIRフィルタの係数を求める方法


●周波数特性を逆DFTするとインパルス応答(FIR係数)が求まる

 コラム25で述べたように、インパルス応答のDFTはそのシステムの周波数特性となります。
 ということは、逆に
周波数特性を逆DFTするとインパルス応答が得られます。FIRフィルタの場合、インパルス応答がその「係数」に等しくなるため、逆DFTを使用した係数導出法がよく用いられます。

 係数と周波数特性の関係をまとめるとこのようになります。

 インパルス応答(FIR係数) −−−−−→ 周波数特性
                  DFT(式2-20)

 周波数特性 −−−−−→ インパルス応答(FIR係数)
         逆DFT(式2-21)


手順1:所望の振幅特性と位相特性を与える係数導出法

 それでは周波数特性からインパルス応答(FIRフィルタの係数)を導き出す手順を説明します。


●周波数に対して振幅がどのような特性をとるか決める

 まず所望の
振幅特性G(f)を決定します。例えばLPFを設計したい場合図2-77(a)に示すような振幅特性を考えます。カットオフ周波数FcまではGain1という大きいゲインを与え、Fcを超える周波数ではGain2という小さいゲインを与えます。また離散信号ゆえに振幅特性はナイキスト周波数(サンプリング周波数の半分、Fs/2)を軸に対称になるので、Fs/2〜Fs-FcまではGain2、Fs-Fc〜FsまではGain1というゲインを与えます。


●周波数に対して位相は直線的に遅れていく

 次に所望の
位相特性θ(f)を決定します。これから設計するFIRフィルタは「直線位相特性」(コラム26で解説)と仮定すると、位相特性は図2-77(b)に示すように直線的なギザギザ波形になります。(*1)

(*1)ギザギザ(不連続点)があるのは位相特性の定義式(式2-14)にアークタンジェントが含まれるためで、感覚的にはまっすぐ斜め下に向かって伸びていると考える。


●振幅特性に位相特性を掛け合わせる

 振幅特性G(f)と位相特性θ(f)を
合成して図2-77(c)のように「所望の周波数特性H(f)」となります。


●周波数特性を離散化させて逆DFTすれば係数が求まる

 それから周波数特性を離散化します。周波数軸の0からFs(サンプリング周波数)までをN等分して
離散化します。(図2-77(d))
 最後に
逆DFTを行います(同図(e))。その結果インパルス応答h[n](同図(f))が求められます。FIR型フィルタなのでインパルス応答の形がそのまま「係数」になります。




図2-77 周波数特性からインパルス応答を導く手順1(所望の位相特性を与える方法)

●群遅延時間はインパルス応答の中心

 また直線位相特性なので、群遅延時間は(N-1)/2Fs になり、その位置はインパルス応答の中心になります。(コラム26で解説)


●実際の係数導出法

 これでFIRフィルタの係数導出は終了ですが、実際的にはこのような「所望の位相特性を与える手法」は
あまり使用されません。「次のページへ」をクリックしましょう。

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